夜空を見上げると、星々はゆっくりと動いています。その星の動きを一枚の写真に収め、円を描くような美しい軌跡を描き出した写真——それが「スタートレイル(Star Trails)」や「星グルグル」と呼ばれる星景写真の表現技法です。
一見すると非常に高度なテクニックに見えるかもしれませんが、実は「比較明合成」という手法を使えば、初心者の方でも比較的簡単に、そして確実に幻想的な軌跡を作り出すことができます。本記事では、プロの星景写真家である私が、星の軌跡の撮り方から必要な機材、カメラの設定、そして失敗しないための秘訣までを詳しく解説します。

比較明合成(コンポジット)とは何か?
星の軌跡を撮影するには、大きく分けて「長時間1枚露光」と「比較明合成」の2つのアプローチがあります。現在のデジタルカメラにおける主流であり、圧倒的におすすめなのが後者の「比較明合成」です。
比較明合成とは、同じ構図で連続して撮影した数十枚から数百枚の画像を専用ソフトで重ね合わせる際、各ピクセルで「最も明るい部分だけを残す」という処理方法です。
たとえば、30秒露光で撮影した写真を200枚用意し、それらを比較明合成すると、1枚1枚に写っている星(明るい点)が少しずつ移動しているため、合成後にはそれらが連なって1本の長い線(軌跡)として表現されます。
比較明合成がおすすめな理由
- ノイズが少ない:1枚の露光時間が短いため、数十分もシャッターを開けっ放しにする長時間露光と比べて、センサーの熱ノイズが圧倒的に少なくなります。
- 失敗のリスクが低い:撮影の途中で車のヘッドライトが入ってしまったり、一瞬だけ雲が通過したりしても、後からそのコマだけを省いて合成できるため、作品全体が台無しになるのを防げます。
- 明るい場所でも撮れる:光害がある場所や月明かりがある夜でも、1枚あたりの露出を抑えることで白飛びを防ぎつつ軌跡を伸ばすことができます。
『ここに [SONY α7IV・FE 14mm F1.8 GM・F2.8・30秒・ISO800] で撮影した北極星を中心にした比較明合成の作例画像を挿入』
星の軌跡撮影に必要な機材
星の軌跡を撮影するためには、通常の星空撮影機材に加えて、長時間の連続撮影をサポートするアイテムが必要不可欠です。
- カメラと広角レンズ:広い空を写し込める超広角レンズ(フルサイズ換算14〜24mm程度)が適しています。
- しっかりとした三脚:数時間にわたってカメラを完全に固定する必要があります。風でブレないよう、剛性の高い三脚を選びましょう。
- インターバルタイマー(レリーズ):カメラに内蔵されている場合もありますが、一定間隔でシャッターを切り続けるためのタイマー機能が必要です。
- レンズヒーター:夜露でレンズが曇るのを防ぐ必須アイテムです。数時間の撮影では結露対策が明暗を分けます。
- 大容量のモバイルバッテリー:長時間の連続撮影ではカメラのバッテリーが尽きる可能性があります。USB給電が可能なカメラであれば、モバイルバッテリーを繋いでおくと安心です。
撮影の手順とおすすめ設定
機材の準備ができたら、実際に撮影に挑みましょう。星の軌跡をきれいに繋げるための最大のポイントは、「コマとコマの間隔(インターバル)を極力短くすること」です。
カメラの基本設定
- 撮影モード:マニュアル(M)モード
- フォーカス:マニュアルフォーカス(MF)で星にピントを厳密に合わせる
- 手ブレ補正:必ずオフにする(三脚使用時の誤作動を防ぐため)
- ノイズリダクション:長秒時ノイズリダクション機能は必ず「オフ」にする(オンにすると次の撮影までに待ち時間が発生し、軌跡が途切れてしまいます)
露出とインターバルの設定
- F値(絞り):F2.8〜F4程度(少し絞ることで周辺の星の像がシャープになります)
- シャッタースピード(SS):15秒〜30秒
- ISO感度:400〜1600(撮影地の暗さに合わせて調整します。軌跡を太くしたい場合はISOを少し高めにします)
- インターバル:シャッタースピード+1〜2秒(カメラの書き込み時間を考慮しつつ、可能な限り短くします。例:SS30秒ならインターバルは31秒〜32秒)
- 撮影枚数:最低でも100枚〜200枚以上。1時間の軌跡を描くなら、30秒露光で約120枚が必要です。
『ここに [Nikon Z8・NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S・F4・20秒・ISO1600] で撮影した東の空に斜めに流れるスタートレイルの作例画像を挿入』
構図の選び方で変わる軌跡の形
カメラを向ける方角によって、星の軌跡の形は大きく変わります。どのような作品にしたいかによって方角を決めましょう。
- 北の空(北極星周辺):北極星を中心に、同心円状のきれいな円を描きます。スタートレイルの王道とも言える構図です。
- 東・西の空:星が斜めに直線的に流れていくような軌跡を描きます。スピード感やダイナミックな印象を与えたい場合におすすめです。
- 南の空:緩やかな弧を描きながら横へ移動していく軌跡になります。
いずれの場合も、前景(山、木々、特徴的な岩、建物など)をシルエットとして構図の下部に入れることで、写真にスケール感や物語性が生まれます。
合成ソフトと後処理について
撮影した数百枚の写真は、専用のソフトウェアを使って比較明合成を行います。Windowsユーザーであれば、無料で使える「Startrails」や「SiriusComp」が定番で、直感的な操作で簡単に合成が可能です。MacユーザーやAdobe製品をお使いの方は、Photoshopのスクリプト機能や、Lightroom(Classic)の比較明合成用プラグインを利用するのがスムーズです。
合成を行う前に、Lightroomなどで1枚のRAWデータを現像し、ノイズ軽減やホワイトバランスの調整を行い、その設定を全画像に同期(一括適用)してから合成処理を行うと、より高画質で美しい仕上がりになります。
まとめ:万全の準備で星の軌跡を描こう
星の軌跡撮影は、事前の準備と撮影中の忍耐力が求められますが、出来上がった写真を見たときの感動は格別です。特に重要なのは、途中で曇らない「安定した晴天の夜」を選ぶことと、結露対策(レンズヒーター)を忘れないことです。
撮影場所を探す際は、Starscape Guide の光害マップを活用して、街明かりの影響が少ない暗い空を探してみてください。また、星空指数や月齢カレンダーをチェックして、一晩を通して快晴が期待できる新月前後の夜を狙うのが成功への近道です。ぜひ、あなただけの美しいスタートレイル撮影に挑戦してみてください!
よくある質問(FAQ)
Q. 軌跡が点線のように途切れてしまいます。原因は何ですか?
A. コマとコマの間の待ち時間が長すぎることが主な原因です。「長秒時ノイズリダクション」がオンになっていないか確認してください。オンの場合、30秒露光の後に30秒のノイズ処理時間が発生し、その間の星の動きが記録されないため軌跡が途切れます。また、SDカードの書き込み速度が遅い場合も間隔が開く原因になります。
Q. 月明かりがある夜でも撮影できますか?
A. はい、撮影可能です。月明かりがある場合、空全体が明るくなるため1枚あたりの露出を抑える(ISOを下げる、絞る)必要があります。しかし比較明合成なら白飛びを防ぎつつ軌跡を記録できるため、月明かりで照らされた風景と星の軌跡を組み合わせた、美しい作品を撮るチャンスでもあります。
Q. 撮影中に飛行機が横切ってしまいました。どうすればいいですか?
A. 比較明合成の最大のメリットがここで活きます。合成ソフトに読み込む前に、飛行機の軌跡が写ってしまったコマの画像データをフォルダから取り除いてください。前後のコマの間隔が少し開くことになりますが、広角レンズであれば目立たず綺麗に合成できることが多いです。
星を点像で写す通常の星空撮影は初心者のための星空の撮り方で解説しています。